2020.07.02
- デジタル・フォレンジックス
【時事テーマ】河井前法務大臣夫妻の逮捕とDF
LXの深山です。今回は、河井前法務大臣夫妻の公職選挙法違反の疑いによる逮捕とDFとの関係について解説したいと思います。
事件の大まかな流れは、2019年7月の参議院議員選挙をめぐって、河井案里参議院議員に公職選挙法違反(買収)の疑いが浮上し、10月31日には夫の河井克行法務大臣(当時)が辞任、2020年1月15日には夫妻の事務所に家宅捜索が入り、3月3日には公設秘書らが逮捕され、6月18日に河井夫妻が逮捕されたというものです。
この逮捕で決め手となったのがDFであり、特にスマートフォンからのLINEとGPSデータが重要な証拠となったようです。
まず、LINEのデータについては、とある記事によると、夫の河井前法務大臣がLINEを通じて案里議員の陣営関係者と頻繁に連絡を取り、「あらいぐま」というハンドルネームを使って選挙活動の指示を出していました。LINEのデータは一部削除されていたものの、データ解析により復元することができ、客観的な証拠の一つとなったようです。「あらいぐま」と「LINE」で検索するとネット上でも公開されているとおり、いくつもの具体的な指示が残っていたことがわかります。近年は、いちいちメールを使ったり、電話で1対1の指示を出したりするよりも、グループでの作業を容易にする各種メッセンジャーを活用することが多くなっているため、メッセンジャーアプリは、捜査や調査を行う上では非常に重要な解析項目となっています。
次に、GPS情報については、とある記事によると、端末本体に残っているGPS情報ではなく、Googleマップの履歴情報から位置情報を収集して夫妻の行動を明らかにし、夫妻から押収したリストに記載されていた買収対象者の位置情報と比較して買収の証拠としたようです。スマートフォンでは、一部のデータ(特定の日のデータや特定の条件に合致するデータ)を削除しても、削除データはアプリ内のデータベースに残っているため、アプリ全体をアンインストールしない限りは、復元が可能なケースが多くあります。そのため、所有者本人が意図しなくても、自動的に位置情報が記録されていき、端末が証拠品として押収されてデータが解析されれば、位置情報が客観的な証拠として活用できるケースが多いのです。客観的な証拠として活用できるのは、捜査側だけのメリットとは限りません。例えば先程の記事によると、同じ時間帯に河井前法務大臣と同じエリアに滞在していた県議は、位置情報を時系列で比較して移動の方向まで割り出すことにより、たまたま路上ですれ違っただけだったということがGPS情報によって客観的に説明でき、身の潔白を証明する証拠の一つとなりました。
私が法執行機関にいた時にも、インサイダー取引容疑の事件で似たような経験がありました。ある企業の経営に深く関わるコンサルタント業務を行っていた方(いわゆるインサイダー)が、当該企業の株価が急落する直前に大量の株式を売却していたことからインサイダー取引の容疑がかけられ、強制調査が行われました。押収したパソコンデータを詳細に解析して調べたところ、強制調査前に集められた他の証拠(証券取引履歴、会社と容疑者との契約関係等)とは食い違う客観証拠が多く見いだされ、結果として、売却時にはインサイダー情報は得ておらず、売却タイミングが偶然近かっただけと判断され、容疑が晴れたというものです。
このように、捜査関係者や法執行機関側にとってだけでなく、容疑者側にとっても、DFが重要となっていることが実感できると思います。DFが普及することは、捜査側と容疑者側のどちらか一方にとって有利というわけではなく、客観的な証拠を照らし合わせて真相を解明するというフェアな社会を作り出すことに貢献できると考えられます。
次回はスマートフォン共通の具体的解析手法の解説を行いたいと思います。
本記事の監修者
顧問 公認不正検査士 経営修士(MBA)・DCM修士 / Office Miyama代表
深山 治OSAMU MIYAMA
- 専門分野
- 会計・財務アドバイザリー, デジタル・フォレンジックス
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LXの深山です。今回は、河井前法務大臣夫妻の公職選挙法違反の疑いによる逮捕とDFとの関係について解説したいと思います。
事件の大まかな流れは、2019年7月の参議院議員選挙をめぐって、河井案里参議院議員に公職選挙法違反(買収)の疑いが浮上し、10月31日には夫の河井克行法務大臣(当時)が辞任、2020年1月15日には夫妻の事務所に家宅捜索が入り、3月3日には公設秘書らが逮捕され、6月18日に河井夫妻が逮捕されたというものです。
この逮捕で決め手となったのがDFであり、特にスマートフォンからのLINEとGPSデータが重要な証拠となったようです。
まず、LINEのデータについては、とある記事によると、夫の河井前法務大臣がLINEを通じて案里議員の陣営関係者と頻繁に連絡を取り、「あらいぐま」というハンドルネームを使って選挙活動の指示を出していました。LINEのデータは一部削除されていたものの、データ解析により復元することができ、客観的な証拠の一つとなったようです。「あらいぐま」と「LINE」で検索するとネット上でも公開されているとおり、いくつもの具体的な指示が残っていたことがわかります。近年は、いちいちメールを使ったり、電話で1対1の指示を出したりするよりも、グループでの作業を容易にする各種メッセンジャーを活用することが多くなっているため、メッセンジャーアプリは、捜査や調査を行う上では非常に重要な解析項目となっています。
次に、GPS情報については、とある記事によると、端末本体に残っているGPS情報ではなく、Googleマップの履歴情報から位置情報を収集して夫妻の行動を明らかにし、夫妻から押収したリストに記載されていた買収対象者の位置情報と比較して買収の証拠としたようです。スマートフォンでは、一部のデータ(特定の日のデータや特定の条件に合致するデータ)を削除しても、削除データはアプリ内のデータベースに残っているため、アプリ全体をアンインストールしない限りは、復元が可能なケースが多くあります。そのため、所有者本人が意図しなくても、自動的に位置情報が記録されていき、端末が証拠品として押収されてデータが解析されれば、位置情報が客観的な証拠として活用できるケースが多いのです。客観的な証拠として活用できるのは、捜査側だけのメリットとは限りません。例えば先程の記事によると、同じ時間帯に河井前法務大臣と同じエリアに滞在していた県議は、位置情報を時系列で比較して移動の方向まで割り出すことにより、たまたま路上ですれ違っただけだったということがGPS情報によって客観的に説明でき、身の潔白を証明する証拠の一つとなりました。
私が法執行機関にいた時にも、インサイダー取引容疑の事件で似たような経験がありました。ある企業の経営に深く関わるコンサルタント業務を行っていた方(いわゆるインサイダー)が、当該企業の株価が急落する直前に大量の株式を売却していたことからインサイダー取引の容疑がかけられ、強制調査が行われました。押収したパソコンデータを詳細に解析して調べたところ、強制調査前に集められた他の証拠(証券取引履歴、会社と容疑者との契約関係等)とは食い違う客観証拠が多く見いだされ、結果として、売却時にはインサイダー情報は得ておらず、売却タイミングが偶然近かっただけと判断され、容疑が晴れたというものです。
このように、捜査関係者や法執行機関側にとってだけでなく、容疑者側にとっても、DFが重要となっていることが実感できると思います。DFが普及することは、捜査側と容疑者側のどちらか一方にとって有利というわけではなく、客観的な証拠を照らし合わせて真相を解明するというフェアな社会を作り出すことに貢献できると考えられます。
次回はスマートフォン共通の具体的解析手法の解説を行いたいと思います。
本記事の監修者
顧問 公認不正検査士 経営修士(MBA)・DCM修士 / Office Miyama代表
深山 治OSAMU MIYAMA
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