2021.09.15
- リスクマネジメント
【内部統制】財務報告に係る内部統制の基本を読み直す(その1)
金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX)が導入されて10年以上が経過しました。導入当初は、各社の実態を踏まえて十分に議論されたうえで導入された制度も、不正会計事件が発生した企業に見られるように、導入後にビジネスの変化に対応した内部統制の適切な見直しがなされず、惰性による形式的な運用評価が続けられるなど、J-SOXの形骸化を疑わせる状況も見受けられます。一方で、コンプライアンス意識の高まりに伴い、現在の状況に適合した内部統制の整備・運用への見直しに対するニーズも高まっています。
今回は、改めて制度の目的や背景に立ち返り、J-SOXの基本となる概念を理解する際に役立つ関連情報を整理します。
1.内部統制報告制度の現状
金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(以下、便宜的に「J-SOX」といいます。)が2008年
に導入されてから10年以上が経過しました。導入当時は、監査法人や場合によっては内部統制コン
サルタント会社などを巻き込み、各社における実態を踏まえた活発な議論がなされ、J-SOX導入が
行われました。しかし、その後の不正会計事件の発生状況を見るまでもなく、企業関係者からは、
J-SOXの形式的な対応がなされている、不備なしという結論ありきで本末転倒な運用となっている
など、J-SOXの形骸化を疑わせる事情が聞かれます。
このような企業においては、制度の導入時に「ギリギリセーフ」レベルでの形だけの導入にとど
まっていた、あるいは、導入後にビジネスの変化に対応した内部統制の見直しがなされず、惰性に
よる形式的な運用評価を続けていたなどといった経緯があるはずですが、その根本原因は、経営者
のJ-SOXに対する無関心にあると考えられるでしょう。そのような状況下であれば、時の経過とと
もに導入時の内部統制担当者が去り、各社において導入した制度の目的や背景が忘れ去られてし
まっても不思議ではありません。
その一方で、コンプライアンス意識の高まりに伴い、財務報告に係る内部統制の整備・運用が現
在の状況に適合しているのか見直しを行いたいというニーズは高まっています。そこで、改めて、
J-SOXに関する情報を読み直し、基本となる概念について確認をしていきたいと思います。
2.J-SOXに対応するということ
J-SOXに対応するということは、要するに、金融庁企業会計審議会が公表する「財務報告に係る
内部統制の評価及び監査の基準」(以下、「基準」といいます。)と「財務報告に係る内部統制の
評価及び監査に関する実施基準」(以下、「実施基準」といい、これと基準を併せて「実施基準
等」といいます。)に従って、内部統制を整備・運用するということです。
その際には、制度導入時に各社で行われていたように、これらの実施基準等に記されていること
の目的や背景、意図について十分に理解し、各社の置かれた環境や事業の特性、規模等に照らして、
どのような内部統制を整備し運用していくかを主体的に決めていくことが何より重要です。
実施基準等を理解する際に参考となる金融庁の公表情報としては、以下のものが挙げられます。
①「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査
に関する実施基準の改訂について(意見書)」
(平成19年2月15日設定令和元年12月6日改訂企業会計審議会)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20191213.html
実施基準等は、意見書と一体的な形式で公表されており、意見書には実施基準等の設定や改訂の
経緯、実施基準等の主な内容、主な改訂点とその考え方が記載されています。
②「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」
(平成17年12月8日企業会計審議会内部統制部会)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/singi/f-20051208-2.html
J-SOXの導入に向けて基準を定めるに先立ち、内部統制の充実の必要性や基準の在り方など、当
時の背景事情や考え方が記されています。
③「内部統制報告制度に関するQ&A」
(平成19年10月1日平成20年6月24日追加平成21年4月2日追加平成23年3月31日改訂金融
庁総務企画局)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/22/sonota/20110331-11.html
J-SOX導入当時、J-SOXに関して寄せられた照会等に対して金融庁が行った回答等のうち、当時
先例的な価値があると認められるものを整理したものです。
④「内部統制制度に関する11の誤解」
(平成20年3月11日金融庁)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20080311-1.html
J-SOX導入年度(平成20年4月1日以後開始事業年度)開始を目前に控えた当時、一部で過度に保
守的な対応が行われているという認識のもと、改めて制度の意図を説明するため公表されました。
J-SOX導入から長い年月を経た今、これらの資料を改めて読み直すことは内部統制の見直しにお
いて必ず役立つものですが、これらの理解は企業の構成員全員にとって不可欠なものであるといっ
ても過言ではないように思われます。次回は実施基準等を中心に、その内容を確認していきます。
本記事の監修者
業務執行社員 公認会計士 / 公認不正検査士 / 税理士 / 中小企業診断士
髙山 清子SUMIKO TAKAYAMA
- 専門分野
- 会計・財務アドバイザリー, デジタル・フォレンジックス
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金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(J-SOX)が導入されて10年以上が経過しました。導入当初は、各社の実態を踏まえて十分に議論されたうえで導入された制度も、不正会計事件が発生した企業に見られるように、導入後にビジネスの変化に対応した内部統制の適切な見直しがなされず、惰性による形式的な運用評価が続けられるなど、J-SOXの形骸化を疑わせる状況も見受けられます。一方で、コンプライアンス意識の高まりに伴い、現在の状況に適合した内部統制の整備・運用への見直しに対するニーズも高まっています。
今回は、改めて制度の目的や背景に立ち返り、J-SOXの基本となる概念を理解する際に役立つ関連情報を整理します。
1.内部統制報告制度の現状
金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(以下、便宜的に「J-SOX」といいます。)が2008年
に導入されてから10年以上が経過しました。導入当時は、監査法人や場合によっては内部統制コン
サルタント会社などを巻き込み、各社における実態を踏まえた活発な議論がなされ、J-SOX導入が
行われました。しかし、その後の不正会計事件の発生状況を見るまでもなく、企業関係者からは、
J-SOXの形式的な対応がなされている、不備なしという結論ありきで本末転倒な運用となっている
など、J-SOXの形骸化を疑わせる事情が聞かれます。
このような企業においては、制度の導入時に「ギリギリセーフ」レベルでの形だけの導入にとど
まっていた、あるいは、導入後にビジネスの変化に対応した内部統制の見直しがなされず、惰性に
よる形式的な運用評価を続けていたなどといった経緯があるはずですが、その根本原因は、経営者
のJ-SOXに対する無関心にあると考えられるでしょう。そのような状況下であれば、時の経過とと
もに導入時の内部統制担当者が去り、各社において導入した制度の目的や背景が忘れ去られてし
まっても不思議ではありません。
その一方で、コンプライアンス意識の高まりに伴い、財務報告に係る内部統制の整備・運用が現
在の状況に適合しているのか見直しを行いたいというニーズは高まっています。そこで、改めて、
J-SOXに関する情報を読み直し、基本となる概念について確認をしていきたいと思います。
2.J-SOXに対応するということ
J-SOXに対応するということは、要するに、金融庁企業会計審議会が公表する「財務報告に係る
内部統制の評価及び監査の基準」(以下、「基準」といいます。)と「財務報告に係る内部統制の
評価及び監査に関する実施基準」(以下、「実施基準」といい、これと基準を併せて「実施基準
等」といいます。)に従って、内部統制を整備・運用するということです。
その際には、制度導入時に各社で行われていたように、これらの実施基準等に記されていること
の目的や背景、意図について十分に理解し、各社の置かれた環境や事業の特性、規模等に照らして、
どのような内部統制を整備し運用していくかを主体的に決めていくことが何より重要です。
実施基準等を理解する際に参考となる金融庁の公表情報としては、以下のものが挙げられます。
①「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査
に関する実施基準の改訂について(意見書)」
(平成19年2月15日設定令和元年12月6日改訂企業会計審議会)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20191213.html
実施基準等は、意見書と一体的な形式で公表されており、意見書には実施基準等の設定や改訂の
経緯、実施基準等の主な内容、主な改訂点とその考え方が記載されています。
②「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方について」
(平成17年12月8日企業会計審議会内部統制部会)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/singi/f-20051208-2.html
J-SOXの導入に向けて基準を定めるに先立ち、内部統制の充実の必要性や基準の在り方など、当
時の背景事情や考え方が記されています。
③「内部統制報告制度に関するQ&A」
(平成19年10月1日平成20年6月24日追加平成21年4月2日追加平成23年3月31日改訂金融
庁総務企画局)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/22/sonota/20110331-11.html
J-SOX導入当時、J-SOXに関して寄せられた照会等に対して金融庁が行った回答等のうち、当時
先例的な価値があると認められるものを整理したものです。
④「内部統制制度に関する11の誤解」
(平成20年3月11日金融庁)
URL:https://www.fsa.go.jp/news/19/syouken/20080311-1.html
J-SOX導入年度(平成20年4月1日以後開始事業年度)開始を目前に控えた当時、一部で過度に保
守的な対応が行われているという認識のもと、改めて制度の意図を説明するため公表されました。
J-SOX導入から長い年月を経た今、これらの資料を改めて読み直すことは内部統制の見直しにお
いて必ず役立つものですが、これらの理解は企業の構成員全員にとって不可欠なものであるといっ
ても過言ではないように思われます。次回は実施基準等を中心に、その内容を確認していきます。
本記事の監修者
業務執行社員 公認会計士 / 公認不正検査士 / 税理士 / 中小企業診断士
髙山 清子SUMIKO TAKAYAMA
- 専門分野
- 会計・財務アドバイザリー, デジタル・フォレンジックス

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