2022.03.16
- リスクマネジメント
【内部統制】財務報告に係る内部統制の基本を読み直す(その4)
前回は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の内部統制の定義の前半において触れられている、内部統制の4つの目的を中心に確認しました。
今回は前回に引き続き、内部統制の定義の後半において触れられている、内部統制の6つの基本的要素と、そのうちの1つである統制環境について確認していきます。
Contents
1.内部統制の基本的要素
財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(以下、「基準」といいます。)では、内部統制は以下のように定義されています。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
今回は内部統制の定義の後半に書かれている、「内部統制の基本的要素」について確認します。
基準では、内部統制の基本的要素は以下のように説明されています。
内部統制の基本的要素とは、内部統制の目的を達成するために必要とされる内部統制の構成部分をいい、内部統制の有効性の判断の規準となる。
ポイントは、①内部統制の目的を達成するために必要なものであって、②内部統制が有効かどうかの判断の規準になる、ということです。
そして、その基本的要素として、以下の6項目が規定されています。
(1) 統制環境
(2) リスクの評価と対応
(3) 統制活動
(4) 情報と伝達
(5) モニタリング
(6) ITへの対応
つまり、前回説明した内部統制の4つの目的を達成するためには、内部統制の6つの基本的要素がいずれも欠けることなく、適切に整備・運用されることが不可欠なのです。
2.統制環境
基本的要素の1つである「統制環境」について、基準では以下のように定義されています。
統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内の全ての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。
ここでのポイントは、統制環境は、組織の気風を決定するものであり、他の5つの基本的要素の基盤となる最も重要な要素であるということです。組織の気風はしばしば”社風”というような言い方をされますが、これが健全であればそもそも問題は生じにくいですし、仮に問題が生じても早期に適切な対応が期待できることは想像に難くないでしょう。
この統制環境の例として、基準では以下の7つが挙げられています。
誠実性および倫理観
組織における誠実性及び倫理観とは、組織として高い誠実性や倫理観を重視しており、それが経営陣から新入社員に至るまで浸透しているかどうか、ということです。組織における誠実性及び倫理観が醸成されていれば、仮に内部統制が十分に整備されていなかったとしても、各役員・従業員を正しい判断や誠実な行動へとおのずと促すことができます。
組織における誠実性及び倫理観を醸成するためには、例えば、組織の倫理規程や行動指針等を作成し、これを経営者自らが率先して組織内のすべての者に周知し、遵守させるような教育を行うこと、一過性に終わらせずこれを継続することが不可欠です。このような取り組みが適切かつ継続的に行われるかどうかは、下記②の経営者の意向及び姿勢によって大きく影響を受けます。
経営者の意向及び姿勢
経営者の意向及び姿勢とは、経営者が組織の経営を、何のために、どのように行うべきと考えているかという経営理念のようなものとも言え、組織の基本方針や組織風土に大きな影響を及ぼします。経営者が “普段から” 組織内外に対してどのような発言や行動を行っているか、予算や人事等の方針決定において何を重視しているか、関連法規の遵守を重視しているかどうかなどが、一人一人の役員・従業員の行動に影響を与えることになります。
経営方針及び経営戦略
組織の経営方針や経営戦略は、②の経営者の意向及び姿勢をより具体的な内容に落とし込んだものとも言えます。年度別・部門別の予算や事業計画等によって具体化されて管理されることにより、役員・従業員の価値基準に重大な影響を与え、また、組織内での資源配分を決定づけます。
取締役会及び監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会の有する機能
取締役会や監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役以下を指して「監査役等」といいます。)の機関は、取締役による職務執行を監視・監督する機能を有しており、これらの機関の活動の有効性は、組織のモニタリングが有効に機能しているか否かを判断する重要な要因となります。取締役会や監査役等の活動の有効性は、例えば以下のような点により評価されます。
・実質的に経営者や特定の利害関係者から独立して意見を述べることができるか
・モニタリングに必要な正しい情報を適時かつ適切に得ているか
・経営者、内部監査人等との間で適時かつ適切に意思疎通が図られているか
・取締役会及び監査役等の行った報告及び指摘事項が組織において適切に取り扱われているか
組織構造及び慣行
組織構造は、組織の目的に適合した組織形態、権限及び職責、人事・報酬制度などの仕組みが経営者によって適切に構築され、事業活動を管理する上で必要な情報の流れを提供できるものとなっていることが重要です。組織の慣行は、組織内における行動の善悪についての判断指針となりうるため、例えば、組織内に問題があっても指摘しにくいといった慣行が形成されている場合には、他の基本的要素である統制活動、情報と伝達、モニタリングの有効性に重大な悪影響を及ぼします。
権限及び職責
権限とは組織の活動を遂行するため付与された権利、職責とは遂行すべき活動を遂行する責任・義務、をいいます。内部統制の目的を達成するため、部署間や部署内部での相互牽制が機能するように、適切な職務分掌と権限設定を行います。
人的資源に対する方針と管理
雇用、昇進、給与、研修等の人事に関する方針を適切に定めて、その方針に従って人的資源を管理することです。事業目的に適した人材を雇用するための採用要件の設定や、雇用した人材の能力を高度に引き出していくための人事評価制度や給与体系、教育研修制度などが重要になります。
次回は、統制環境以外の基本的要素について確認していきます。
本記事の監修者
業務執行社員 公認会計士 / 公認不正検査士 / 税理士 / 中小企業診断士
髙山 清子SUMIKO TAKAYAMA
- 専門分野
- 会計・財務アドバイザリー, デジタル・フォレンジックス
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前回は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の内部統制の定義の前半において触れられている、内部統制の4つの目的を中心に確認しました。
今回は前回に引き続き、内部統制の定義の後半において触れられている、内部統制の6つの基本的要素と、そのうちの1つである統制環境について確認していきます。
Contents
1.内部統制の基本的要素
財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(以下、「基準」といいます。)では、内部統制は以下のように定義されています。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。 |
今回は内部統制の定義の後半に書かれている、「内部統制の基本的要素」について確認します。
基準では、内部統制の基本的要素は以下のように説明されています。
内部統制の基本的要素とは、内部統制の目的を達成するために必要とされる内部統制の構成部分をいい、内部統制の有効性の判断の規準となる。 |
ポイントは、①内部統制の目的を達成するために必要なものであって、②内部統制が有効かどうかの判断の規準になる、ということです。
そして、その基本的要素として、以下の6項目が規定されています。
(1) 統制環境 (2) リスクの評価と対応 (3) 統制活動 (4) 情報と伝達 (5) モニタリング (6) ITへの対応 |
つまり、前回説明した内部統制の4つの目的を達成するためには、内部統制の6つの基本的要素がいずれも欠けることなく、適切に整備・運用されることが不可欠なのです。
2.統制環境
基本的要素の1つである「統制環境」について、基準では以下のように定義されています。
統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内の全ての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎をなし、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング及びITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう。 |
ここでのポイントは、統制環境は、組織の気風を決定するものであり、他の5つの基本的要素の基盤となる最も重要な要素であるということです。組織の気風はしばしば”社風”というような言い方をされますが、これが健全であればそもそも問題は生じにくいですし、仮に問題が生じても早期に適切な対応が期待できることは想像に難くないでしょう。
この統制環境の例として、基準では以下の7つが挙げられています。
誠実性および倫理観
組織における誠実性及び倫理観とは、組織として高い誠実性や倫理観を重視しており、それが経営陣から新入社員に至るまで浸透しているかどうか、ということです。組織における誠実性及び倫理観が醸成されていれば、仮に内部統制が十分に整備されていなかったとしても、各役員・従業員を正しい判断や誠実な行動へとおのずと促すことができます。
組織における誠実性及び倫理観を醸成するためには、例えば、組織の倫理規程や行動指針等を作成し、これを経営者自らが率先して組織内のすべての者に周知し、遵守させるような教育を行うこと、一過性に終わらせずこれを継続することが不可欠です。このような取り組みが適切かつ継続的に行われるかどうかは、下記②の経営者の意向及び姿勢によって大きく影響を受けます。
経営者の意向及び姿勢
経営者の意向及び姿勢とは、経営者が組織の経営を、何のために、どのように行うべきと考えているかという経営理念のようなものとも言え、組織の基本方針や組織風土に大きな影響を及ぼします。経営者が “普段から” 組織内外に対してどのような発言や行動を行っているか、予算や人事等の方針決定において何を重視しているか、関連法規の遵守を重視しているかどうかなどが、一人一人の役員・従業員の行動に影響を与えることになります。
経営方針及び経営戦略
組織の経営方針や経営戦略は、②の経営者の意向及び姿勢をより具体的な内容に落とし込んだものとも言えます。年度別・部門別の予算や事業計画等によって具体化されて管理されることにより、役員・従業員の価値基準に重大な影響を与え、また、組織内での資源配分を決定づけます。
取締役会及び監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会の有する機能
取締役会や監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会(以下、監査役以下を指して「監査役等」といいます。)の機関は、取締役による職務執行を監視・監督する機能を有しており、これらの機関の活動の有効性は、組織のモニタリングが有効に機能しているか否かを判断する重要な要因となります。取締役会や監査役等の活動の有効性は、例えば以下のような点により評価されます。
・実質的に経営者や特定の利害関係者から独立して意見を述べることができるか
・モニタリングに必要な正しい情報を適時かつ適切に得ているか
・経営者、内部監査人等との間で適時かつ適切に意思疎通が図られているか
・取締役会及び監査役等の行った報告及び指摘事項が組織において適切に取り扱われているか
組織構造及び慣行
組織構造は、組織の目的に適合した組織形態、権限及び職責、人事・報酬制度などの仕組みが経営者によって適切に構築され、事業活動を管理する上で必要な情報の流れを提供できるものとなっていることが重要です。組織の慣行は、組織内における行動の善悪についての判断指針となりうるため、例えば、組織内に問題があっても指摘しにくいといった慣行が形成されている場合には、他の基本的要素である統制活動、情報と伝達、モニタリングの有効性に重大な悪影響を及ぼします。
権限及び職責
権限とは組織の活動を遂行するため付与された権利、職責とは遂行すべき活動を遂行する責任・義務、をいいます。内部統制の目的を達成するため、部署間や部署内部での相互牽制が機能するように、適切な職務分掌と権限設定を行います。
人的資源に対する方針と管理
雇用、昇進、給与、研修等の人事に関する方針を適切に定めて、その方針に従って人的資源を管理することです。事業目的に適した人材を雇用するための採用要件の設定や、雇用した人材の能力を高度に引き出していくための人事評価制度や給与体系、教育研修制度などが重要になります。
次回は、統制環境以外の基本的要素について確認していきます。
本記事の監修者
業務執行社員 公認会計士 / 公認不正検査士 / 税理士 / 中小企業診断士
髙山 清子SUMIKO TAKAYAMA
- 専門分野
- 会計・財務アドバイザリー, デジタル・フォレンジックス
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